製造業や社会インフラ分野で、「データをもっと手軽に取りたい」というニーズが高まっています。従来は高価な制御装置や専用ゲートウェイが主流でしたが、いま注目を集めているのが産業用ラズパイ(Raspberry Pi Industrial)の活用です。小型・堅牢・省電力な特性を持つラズパイは、FA(Factory Automation)設備の稼働監視から、プラント・上下水道・エネルギー施設の遠隔計測まで、幅広い現場に対応。
SCADAWORXが取り扱うN3uron(ニューロン)との組み合わせにより、センサーやPLC、クラウドを安全に接続し、データの収集・見える化・制御を一元管理できます。本記事では、産業用ラズパイがFAおよびインフラ監視の現場でどのように役立つのか、その導入メリットと具体的な応用事例を紹介します。
産業用ラズパイとは?FA分野で注目される理由
ラズパイが“工業用途”に進化した背景
Raspberry Piはもともと教育用・試作用の小型コンピュータとして登場しましたが、近年ではその柔軟性と拡張性が評価され、FAやインフラ分野での採用が急速に進んでいます。背景には、センサーやPLCなどの産業機器がネットワーク接続を前提に設計されるようになり、データ収集と可視化のニーズが高まったことがあります。
特に“産業用ラズパイ”と呼ばれるモデルは、動作温度範囲の拡大や絶縁I/Oポートの搭載、DINレール取付対応など、現場環境での安定稼働を前提に設計。従来は高価だった産業PCの代替として、低コストかつ短納期でIoT化を実現できることから、工場DXやインフラ監視の入口として注目を集めています。
一般ラズパイとの違い:堅牢性・長期供給・I/O拡張性
一般的なRaspberry Piと産業用モデルの違いは、“信頼性”と“供給安定性”にあります。工場や屋外設備では24時間365日稼働が求められるため、温度・振動・ノイズなど過酷な条件に耐える設計が必須です。産業用ラズパイは、絶縁型デジタルI/O、シリアル通信(RS-485/RS-232)、CAN、PoEなど多様な入出力を標準装備し、FA機器との直接接続を可能にします。
また、コンポーネントの長期供給や品質トレーサビリティが確保されており、量産ラインや社会インフラでも安心して採用できます。これにより、従来の制御機器に比べて大幅なコスト削減と柔軟なカスタマイズを実現。小型ながら産業グレードの信頼性を備えています。
エッジコンピューティング時代の新たな役割
クラウド中心のIoT構成が進む一方で、現場側(エッジ)でデータを処理する「エッジコンピューティング」が注目されています。産業用ラズパイは、そのエッジ処理の中心デバイスとして理想的な存在です。温度・振動・電流などのリアルタイムデータを一時的に解析し、異常を検知した場合のみ上位システムへ送信することで、通信量とレイテンシを大幅に削減。クラウドが停止しても現場処理を継続できるフェイルセーフ設計にも適しています。
SCADAWORXが扱うN3uronを組み合わせれば、エッジで整形したデータを安全にクラウドやiFEMSへ転送でき、現場の自律性と経営判断のスピードを両立。産業用ラズパイは、分散処理時代の“現場の頭脳”として進化しています。
インフラ監視・計測への展開
水処理・上下水道設備の遠隔モニタリング
産業用ラズパイは、水処理場や上下水道施設などのインフラ監視にも適しています。これまで現地巡回や手動記録に頼っていた水位、流量、濁度、ポンプ稼働状況といった情報を、自動的にセンシングして遠隔監視できます。ラズパイは小型で消費電力が少なく、制御盤や既設機器の空きスペースにも容易に設置可能。N3uronを介して通信すれば、VPNやMQTTを用いた安全なデータ転送が可能です。これにより、水位上昇やポンプ異常などをリアルタイムで検知し、現場に出向かずに状況を把握できます。
SCADAWORXは通信断対策や電源冗長設計を含め、ライフライン監視に求められる高い信頼性を実現します。
エネルギー・電力・気象観測分野での応用
ラズパイは電力やガス、再生可能エネルギー分野においてもデータ収集端末として効果を発揮します。発電設備や変電所では電圧・電流・周波数を継続モニタリングし、異常波形を早期に検知。太陽光や風力の発電量、気象データを同時取得することで、稼働効率や出力予測にも活用できます。
SCADAWORXが提供する構成では、N3uronが各種プロトコル(Modbus、OPC-UA、DNP3など)を統合し、クラウドやiFEMSにシームレス連携。データ欠測時にはバッファリングと再送を自動で行うため、長期的なエネルギー管理やCO₂排出監視にも適しています。省エネ・脱炭素の実行基盤としても有効なIoT構成です。
ネットワーク・電源の冗長化による運用安定性
インフラ監視で最も重要なのは「止まらないこと」です。ラズパイを中心としたシステムでは、通信と電源の冗長化設計が安定運用の鍵となります。SCADAWORXは、LTEルーターや光回線など複数経路のネットワークを設け、通信断時にもローカル保存と再送でデータ欠損を防ぎます。電源についてもUPS(無停電電源装置)や二重給電を採用し、瞬停や停電時でも自動復旧できる構成を推奨。
さらに、N3uronによる死活監視やアラート通知を組み合わせることで、システム全体を“自律的に監視する仕組み”として運用可能です。これにより、設備の信頼性を高めつつ、保守コストの削減と省人化を同時に実現します。
SCADAWORXが提供する産業用IoT構成の特徴
N3uronによるマルチプロトコル統合とセキュア通信
SCADAWORXが採用する「N3uron(ニューロン)」は、産業データ通信を統合する次世代SCADAプラットフォームです。Modbus、OPC UA、MQTT、BACnetなど複数の産業用プロトコルにネイティブ対応し、メーカーや機器ごとに異なる通信仕様を吸収。タグ定義を統一することで、データの整合性と再利用性を大幅に高めます。
また、すべての通信はTLS暗号化と認証機能を備え、ゼロトラストの考え方に基づく高いセキュリティを実現。ローカルのエッジデバイスとクラウド間で安全にデータをやり取りできるため、工場やインフラ監視などの高信頼環境にも最適です。N3uronは軽量設計で、産業用ラズパイにもスムーズに実装できます。
iFEMSとの連携でFA・インフラの見える化を一体化
エネルギーや生産設備の監視を別々に運用している現場では、部門間のデータ断絶が課題となります。SCADAWORXは、N3uronを通じて収集したデータを自社開発の「iFEMS(Intelligent Factory Energy Management System)」に統合。受変電、空圧、ボイラー、空調、照明、水素などのエネルギー設備と生産ライン情報を一体的に可視化します。これにより、生産KPIとエネルギーKPIの両方を同一画面で分析でき、省エネと生産性のバランスを最適化。遠隔監視、アラート、スケジューリングまでをモバイルで完結させることも可能です。
FAとインフラの“データの壁”を越える統合可視化を、SCADAWORXはワンストップで実現します。
受託開発実績に基づく導入支援と国内サポート
SCADAWORXの強みは、受託開発で培った現場知識とエンジニアリング力にあります。単にシステムを販売するだけでなく、現場設備の通信仕様、盤構成、ネットワーク制約を丁寧に調査し、最小工数で導入できる設計を行います。
導入後も、N3uronやiFEMSの設定変更、タグ追加、クラウド連携の最適化などを国内技術者が迅速にサポート。産業用ラズパイのハード選定やファーム設定、セキュリティ対策まで含めてトータルに支援します。
海外製プラットフォーム導入にありがちな言語・時差・仕様ギャップを排除し、導入後の運用負荷を最小化。ライセンス販売と技術支援を両立した国内唯一の体制で、IoT導入を確実に成功へ導きます。
導入メリットと今後の展望
レガシー設備のレトロフィットと低コスト化
製造業や社会インフラの現場では、長年稼働している既設設備を抱えるケースが多く、更新コストが課題となっています。産業用ラズパイを活用したシステムは、既設機器に後付けでセンサーや通信機能を追加できるため、レトロフィット(後付けIoT)に最適です。SCADAWORXの提案する構成では、N3uronを通じて古いPLCや計測器を安全にネットワーク化し、データの収集・整形・可視化をワンストップで実現。設備を入れ替えずにDXを進められるため、投資コストを大幅に削減できます。
また、部品の供給終了やメーカー依存のリスクを回避しながら、長期安定運用を実現。これにより、限られた予算でも段階的なIoT化を着実に推進できます。
中小規模設備へのスモールスタート導入
IoT化は「一気に全工場へ導入」する必要はありません。産業用ラズパイは、1台から始められる柔軟性と拡張性が大きな魅力です。
SCADAWORXは、まず限られた設備や工程にN3uronを導入し、データ収集と可視化の効果を実感できるスモールスタート方式を推奨。導入後に得られた改善結果をもとに、他ラインや他拠点へ段階的に展開することが可能です。初期投資を抑えながらも、将来的にはiFEMSと連携して全体最適化を図れるため、経営層の意思決定もしやすくなります。
中小企業や自治体施設でも採用しやすいシステム構成で、コストと効果のバランスを最適化した現実的なIoT導入を支援します。
AI分析・カーボンニュートラル対応への拡張性
データを集めるだけではなく、「どう活かすか」が次のテーマです。N3uronで収集した高精度データは、AIによる異常検知や予兆分析の学習素材として活用可能。iFEMSと連携すれば、エネルギー消費と生産データを組み合わせた高度な分析が行え、カーボンニュートラル(CN)やZEF対応にも直結します。特に、太陽光や蓄電池、水素などのエネルギー系データと設備稼働データを統合することで、CO₂排出原単位のリアルタイム算出や最適制御が実現。
SCADAWORXは、こうしたAI・分析基盤の整備も含め、将来のスマートファクトリー構想を見据えた拡張性を確保しています。収集から解析、そして最適化まで、進化し続けるIoTの中核を担います。
まとめ
産業用ラズパイは、FA(工場自動化)や社会インフラの監視計測を変革するデバイスとして、いま大きな注目を集めています。小型・低コストでありながら、現場の厳しい環境下でも安定稼働し、既存設備のデータを容易にIoT化できる点が最大の魅力です。SCADAWORXは、産業用ラズパイとN3uron、そしてiFEMSを組み合わせることで、FAとインフラを横断したデータの一元管理と見える化を実現。さらに、セキュリティ設計やネットワーク冗長化、AI分析基盤までをワンストップで支援します。レガシー設備の延命、省人化、カーボンニュートラル対応など、さまざまな課題に応える柔軟な構成が特長です。IoT導入を「確実に動く形」で進めたい企業にとって、SCADAWORXは最適なパートナーといえるでしょう。