工場の見える化や設備監視を低コストで実現したい企業にとって、産業用ラズパイ「reComputer r1000」とWebベースSCADA「FUXA」は非常に魅力的な組み合わせです。

Seeed Studio の公式Wikiでは、これらを使ってSCADAを構築する手順が詳細に解説されていますが、実際にFA・インフラ現場へ導入するにはセキュリティ設計や運用設計などの専門知識が不可欠です。

本記事では、“現場で使えるSCADA”として成立させるためにSCADAWORXがどのような付加価値を提供できるのかを解説します。

なぜ今「reComputer r1000 × FUXA」が注目されているのか

産業用ラズパイ「reComputer r1000」の特徴と強み

reComputer r1000は、Raspberry Pi CM4をベースにした産業グレードのエッジコンピュータで、従来の一般的なラズパイとは一線を画すハードウェア設計が特徴です。
FA現場やインフラ設備の監視に必要な耐久性・信頼性を備え、DINレールマウント、豊富なI/O、金属筐体、長期供給といった産業用仕様が充実しています。

さらに、Modbus、RS485、CANなど工場設備で一般的な通信規格に対応しており、既存のPLCや計測器と容易に接続できる点も大きなメリットです。

また、小型で省電力なため、盤内スペースが限られる現場にも導入しやすく、複数拠点に分散配置するIoTアーキテクチャとも相性が良い構成です。低コストでありながら、本格的なSCADAやHMIを構築できるプラットフォームとして、現場DXを進めたい企業から高い注目を集めています。

FUXAが変えるSCADAの常識―Web・オープンソースの力

FUXA(フクサ)は、Node.jsベースの完全Web技術で構築されたオープンソースSCADA/HMIツールで、従来のSCADAシステムに比べ圧倒的な軽量性・柔軟性を実現しています。

専用ソフトをインストールする必要がなく、ブラウザだけで監視画面の閲覧や設計が可能。PC・タブレット・スマートフォンからアクセスでき、現場・事務所・遠隔拠点のどこからでも同一の監視画面を操作できます。

さらに、Modbus RTU/TCP、MQTT、OPC-UA、BACnetなど主要な産業プロトコルに対応しているため、新旧バラバラの設備を1つの画面で統合監視できる点も魅力です。高額なランタイムライセンスが不要で、ローコストのまま本格的なSCADAを構築できるため、工場・ビル管理・インフラ施設など多様な現場で導入が加速しています。

低コスト・短納期・スモールスタートに最適な理由

reComputer r1000とFUXAの組み合わせは、「まずは小さく始めたい」という工場やインフラ事業者に最適です。
既存のSCADAは高額なライセンス費用や専用サーバーが必要で、小規模設備や多拠点分散監視にはコストが合わないケースが多くあります。

一方、この構成は低コストの産業用ラズパイオープンソースSCADAだけで構築できるため、初期投資を最小限に抑えつつ、実機データのリアルタイム監視をすぐに始められます。ハードのセットアップやソフトの導入も短期間で行えるため、現場改善のスピードが速い点もメリットです。

また、スモールスタートで得た知見をもとに、徐々にタグ数や接続機器を増やし、大規模システムへ拡張できる柔軟性も備えています。DXを低リスクで進めたい企業にとって、最も現実的な選択肢といえる構成です。

FUXAを使ったSCADA構築の基本手順

ハードウェア準備とNode.js環境構築

FUXAを産業用ラズパイで動作させるためには、まずハードウェアとOS環境の準備が重要です。
こちら(参照:reComputer R1000でfuxaを使用してSCADAを実現)で紹介されている「reComputer r1000」は、Raspberry Pi CM4を搭載した産業向けモデルで、長期運用を前提とした堅牢な筐体と拡張インターフェースを備えています。

OSはRaspberry Pi OS 64bit(Bullseye版)が推奨され、動作要件であるNode.js v18のインストールが必要です。Wikiでは、Node.jsをARM64向けにダウンロードし、/usr/local へ展開する手順が具体的に示されており、FUXAインストール前の重要な準備工程になります。

工場ネットワークに接続する場合は、この段階でSSH設定や固定IPの割当、ファイアウォール設定なども考慮すべきポイントとなります。こうした基盤設定が整うことで、FUXAの安定動作と安全なSCADA運用が実現します。

Modbus/MQTT/OPC-UAなど多様なプロトコル対応

FUXAの大きな強みは、FA・インフラ現場で広く使われる主要プロトコルを標準サポートしている点です。

上記参照サイトでも、Modbus RTU/TCP、Siemens S7、OPC-UA、BACnet、MQTT、Ethernet/IPといった多様な接続方式が紹介されており、古い設備から最新のIoTデバイスまで幅広く接続できます。

設定は「Connections」画面から簡単に追加でき、例えばMQTTならブローカーアドレス、ユーザー名、パスワードなどを入力するだけで、リアルタイムデータの購読(Subscribe)や送信(Publish)が可能になります。Modbusではレジスタの指定、OPC-UAではエンドポイントとノードID設定を行い、タグとしてFUXA画面に取り込むことができます。

こうしたプロトコル対応の広さにより、reComputer r1000は“データ統合ゲートウェイ”としても機能し、現場のあらゆる機器をSCADAへつなぐ役割を果たします。

アルタイム監視・制御を支えるFUXAの機能

タグ・トピック設定とデータサブスクリプション

FUXAでのSCADA構築の中心となるのが「タグ設定」です。
タグとは、センサー値、状態信号、制御命令といったデバイスから取得・送信するデータの識別子で、SCADA画面に表示されるすべての情報の核となります。

これらのタグは後にゲージ、チャート、アラームなどのUI部品に紐づけられ、SCADA画面の動的更新を実現します。

ゲージ・チャート・アラームによる直感的な可視化

FUXAが多くのユーザーに支持されている理由の一つが、ノンプログラミングで本格的なHMI画面を構築できる点です。円形ゲージ、バーゲージ、折れ線チャート、タンク液面表示など、現場監視に必要な可視化ツールを用いて誰でも直感的にわかるようになっています。

編集画面(/editor)では、これらの部品をドラッグ&ドロップで配置し、対応するタグを選択するだけでリアルタイム表示が可能。アラーム機能はHigh-High、High、Low、Messageなどの条件設定ができ、異常値発生時には画面上部の通知バーで即座に警告を確認できます。

視覚的なわかりやすさは、オペレーターの判断速度を高め、異常の早期把握に大きく貢献します。特に小規模工場やインフラ施設では、専門知識がなくても運用できるユーザビリティが強く求められており、FUXAはその点で非常に優れた選択肢となります。

デモ構成から学ぶポンプ・タンク監視の実践例

Wikiで紹介されているデモは、ポンプ・タンク・バルブ・ミキサーなどを含む典型的なプロセス制御の構成で、FUXAの活用イメージを掴むのに最適です。
タンクの液面はゲージで表示され、ポンプの稼働ステータスは色やアイコン変化で直感的に把握でき、バルブの開閉状態はアニメーションで表現されます。

さらに、ミキサーの運転状況とタンク温度の監視を同時に行う構成など、複数のプロセスを並列監視できる点がSCADAとしての強みを示しています。これらは単なる表示にとどまらず、スライダー操作やボタンにタグを紐づけることで、実機に対する制御指令も行える仕組みになっています。

現場の実運用に合わせたUI調整ができるため、水処理、化学プラント、食品生産など、幅広い業界で応用しやすいSCADA構築の実例となっています。

DIY構築の落とし穴と導入時の課題

セキュリティ設計と工場LAN接続リスク

手順に従えばFUXAは簡単に動作しますが、実際のFA・インフラ設備へ導入する場合、最大のハードルとなるのがネットワークセキュリティです。

工場LANは一般のオフィスネットワークと異なり、停止=生産損失につながるため、脆弱な設定のまま外部通信を許可することは大きなリスクになります。

MQTTを利用する場合でも、暗号化(TLS)や認証設定が必須で、Modbus RTU/TCPはプロトコル自体が非暗号化のため、設計段階からネットワーク分離やVPN構築を考慮する必要があります。加えて、Node.jsやOSのアップデートをどこまで許可するか、ログ収集やアクセス権限をどう管理するかも重要な検討ポイントです。

DIY構築では見落としがちなこれらの要素は、SCADAを“止めない”ために不可欠な設計であり、専門知識なしに扱うと重大なトラブルを招く可能性があります。

運用・保守・バージョン管理の壁

FUXAやNode.jsベースのシステムは柔軟ですが、長期運用においてはバージョン管理と保守体制が不可欠です。依存ライブラリやNode.jsの更新によって動作が変わる可能性があります。

工場では24時間365日の運用が求められるため、「突如動かなくなる」「画面が表示されない」などのトラブルは避けなければなりません。

また、reComputer r1000を複数拠点で利用する場合、全台の設定・更新をどう統一するかも現場負担になります。障害発生時に誰が調査しどこまで対応できるのか、保守契約がないDIY構築では曖昧なまま運用されがちです。

SCADAは導入よりも“維持すること”が重要であり、プロフェッショナルなサポートなしでは安定した運用が難しくなるケースが多く見られます。

実運用で問題となる拡張性とタグ管理の限界

デモ環境では数十点のタグで十分でも、実際の工場やインフラ設備では数百〜数千点のデータを扱うことが一般的です。通信負荷、更新頻度、UI表示の最適化など、運用規模が大きくなるほどFUXA単体では処理が追いつかなくなる場面も出てきます。

さらに、動作点数が増えるとタグ命名規則、階層構造、アラーム管理などの運用設計が重要になりますが、DIYでは“気付いたら管理不能”という状況になりがちです。

また、ModbusやMQTTの接続数が増えると、reComputerのCPU負荷やメモリ使用量の最適化も課題となり、専門的なチューニングが求められます。

本格的なSCADA運用には、データ集約基盤やログ保存仕組みとの連携が必須であり、FUXAは優れた可視化ツールである一方で、全体アーキテクチャを設計しなければ安定運用は難しいという現実があります。

SCADAWORXが提供する「プロ品質のSCADA導入支援」


reComputer+FUXA構成の産業グレード化(約400字)

SCADAWORXは、reComputer r1000とFUXAの組み合わせを“実務で使えるSCADA環境”として仕上げるために、産業グレードの設計・実装ノウハウを提供しています。

単に手順通りセットアップするだけでは不十分で、長期稼働を前提としたネットワーク設計、電源冗長化、ログ運用、セキュリティ設定など、現場に合わせた最適化が必要です。

SCADAWORXでは、各種プロトコル(Modbus、OPC-UA、MQTTなど)の安定通信条件を精査し、データ更新周期やパケットサイズ、負荷分散などを考慮した設計を実施。加えて、産業向けの堅牢なケースや盤組込仕様、温度条件を踏まえた配置設計も行い、FUXAが安定稼働する“止まらないSCADA”を構築します。

これにより、PoCのような試験導入から本番運用にスムーズに移行でき、現場で長く使える品質のシステムを提供しています。

PLC連携・ネットワーク・クラウドを含む一括サポート

現場のSCADA導入で最も負荷が大きい工程の一つが、PLCや既存設備とのデータ連携です。SCADAWORXは豊富なFA経験を背景に、三菱、オムロン、キーエンスなど主要PLCとの接続設定、Modbusアドレスマップ整理、OPC-UAノード管理までワンストップで対応します。

また、工場LANのレイヤー設計(L2/L3スイッチ)、VPN構築、MQTTブローカーのセキュリティ設定など、DIYで躓きがちなネットワーク領域も専門技術者が担当。さらに必要に応じてクラウド連携(iFEMSやAzure、AWS IoT等)を組み込み、設備データを活用したダッシュボード生成や予兆保全にも拡張できます。

現場機器・ネットワーク・クラウドの3領域すべてを統合できる点は、SCADAWORXならではの強みです。

iFEMS連携で広がるデータ統合・エネルギー最適化

FUXAは優れた可視化ツールですが、工場全体や複数拠点のデータを統合し、経営・設備管理に活かすにはさらなるプラットフォームが必要です。

SCADAWORXは自社ソリューションであるiFEMS(Intelligent Factory Energy Management System)と連携し、FUXAで収集した設備データをエネルギー管理・生産効率分析へと拡張できます。

例えば、ポンプの稼働時間と電力量、設備負荷とCO₂排出量などを統合的に可視化することで、省エネ施策やカーボンニュートラル対応を加速できます。

さらに、N3uronを利用したデータハブ構築により、他社システムやクラウドAIとの連携も容易。FUXAを入口としながら、エネルギー最適化・予兆保全・工場全体のDXへ段階的に展開できるのが、SCADAWORXの最大の価値です。