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第3回|熱源・AHUは毎日データを吐き出している。それが捨てられている現実

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前回は、省エネ法改正と発注者の意識変化によって、ゼネコン・サブコンに求められる役割が「納品して終わり」から「運用フェーズへの関与」へと拡張しつつあることを整理しました。その変化に対応するためには、施工した設備の運転データを継続的に把握する仕組みが必要だという話で締めくくりました。

今回はその「データ」の話を、もう少し現場に近いところから掘り下げます。

設備はすでに「しゃべっている」

工場や商業施設に設置された空調設備——熱源機(チラー、冷温水発生機、ボイラー)、空調機(AHU、FCU)、ポンプ、冷却塔——は、稼働中に膨大な量のデータを生成し続けています。

冷温水の往き・還り温度、冷媒圧力、コンプレッサーの電流値、ファンの回転数、バルブの開度、外気温・湿度、室内温湿度——これらのデータは多くの場合、設備に内蔵された制御盤やBACnet・Modbus対応のコントローラが1秒〜数分おきに記録しています。

つまり設備はすでに「しゃべっている」のです。自分の状態を、数値として継続的に発信し続けています。

問題はその先にあります。

データは生まれた瞬間に捨てられている

多くの現場では、設備が生成したデータは次のいずれかの運命をたどっています。

制御盤のローカルメモリに一時保存され、一定期間が経過すると上書きされて消える。あるいはBEMS(ビルエネルギー管理システム)に収集されるが、主に月次の電力使用量の集計と請求書の確認にしか使われない。もしくはそもそも外部への出力経路が設計されておらず、制御盤の中だけで完結して誰にも見られない。

設計・施工の段階でデータを「使う」ことを前提とした設計がなされていないため、設備が生涯にわたって生み出すデータのほぼすべてが、活用されることなく消えていきます。

これは単なるもったいない話ではありません。設備の「いま」と「これまで」を知る唯一の手がかりが、体系的に捨てられているということです。

捨てられているデータの中に何があるか

では、捨てられているデータの中には実際に何が含まれているのでしょうか。

異常の前兆があります。 熱交換器のファウリング(汚れによる性能低下)は、冷温水の往き・還り温度差の微妙な変化として数週間前から兆候が現れます。コンプレッサーの軸受け劣化は、電流波形の変動として表れることがあります。これらは連続的なデータを蓄積して初めて「変化のトレンド」として認識できますが、データが捨てられている現場では定期点検の目視確認まで誰も気づけません。

制御の無駄があります。 バルブが必要以上に開いている時間帯、冷凍機が部分負荷で非効率運転を続けている時間帯、外気温が下がっているのに冷房能力の絞り込みが遅れている時間帯——こうした「制御の無駄」は、運転データを分析すれば定量的に把握できます。しかしデータがなければ、「なんとなく電気代が高い」という感覚的な問題認識のまま止まります。

季節・時間帯パターンがあります。 空調負荷は季節・曜日・時間帯・天気によって規則的なパターンを持ちます。このパターンが数ヶ月〜数年分のデータとして蓄積されれば、「明日の昼過ぎは外気温が上がるので今から準備運転を始める」という先読み制御の基礎になります。データなしにはこのパターンを学習することができません。

なぜ「データを使う設計」がされてこなかったのか

空調設備の設計・施工においてデータ活用が前提とされてこなかった背景には、構造的な理由があります。

第一に、設計の評価基準が「設計負荷時の最大性能」に置かれてきたことです。設計図通りの設備を施工し、最大負荷条件での性能試験をクリアすれば引き渡し完了、という評価軸では、部分負荷時の効率や実運用でのエネルギー消費量は問われません。

第二に、データを収集・活用するためのコストが従来は高かったことです。SCADAシステムの導入は大規模プラント向けの高額なシステムというイメージが強く、一般の工場・ビルの空調設備にそのコストをかけることは現実的ではありませんでした。

第三に、「データを使って何をするか」という目的が明確でなかったことです。データを集めても、それを分析して制御に反映させる仕組みがなければ、コストをかけてデータを集める動機が生まれません。

この3つの条件が変わろうとしています。省エネ・CN対応という明確な目的が生まれ、エッジAIデバイスの低コスト化でデータ収集のハードルが下がり、AI制御によってデータを「制御の改善」に直結させる技術が現場に届く水準になってきました。

データの断絶が生む「点検依存」の構造

もう一つ、データが捨てられることで生まれている問題があります。それは設備の状態把握が「定期点検」にしか依拠できないという構造です。

現在の多くの空調設備保守契約は、年2〜4回の定期点検を基本としています。点検の際にフィルターを清掃し、冷媒量を確認し、各部の動作確認を行う——この「時間基準の保全」は、設備の実際の状態ではなくカレンダーに基づいた保全計画です。

設備が「異常の前兆」を発信していても、次の定期点検まで誰もそれに気づかない。あるいは定期点検時には偶然問題が表れておらず、その直後に故障が発生する。こうした事例は現場では日常的に経験されていることです。

連続的な運転データがあれば、設備の「今の状態」を常時把握でき、異常の兆候を早期に検知して必要なときに必要な保全を行う「状態基準の保全」が可能になります。データの断絶は、この可能性を最初から閉ざしています。

ゼネコン・サブコンが「データの出口」を設計する意味

ここまで読んで気づいていただけると思いますが、このデータの問題は設備メーカーでも設備管理会社でもなく、設備を設計・施工するゼネコン・サブコンが最も解決しやすい立場にいます。

設備の設計段階からデータの収集経路を組み込み、SCADAやエッジデバイスへの接続を標準仕様として提案する。これができるのは、設備全体のシステムを把握している施工段階だけです。引き渡し後にデータ収集の仕組みを後付けしようとすると、配線の引き直しや制御盤の改造が必要になり、コストと工期が膨らみます。

「データを使う設計」を施工段階から組み込むことは、発注者への付加価値になるだけでなく、自分たちが施工した設備の「その後」に関与し続けるための接点を作ることでもあります。引き渡した設備の運転データを継続的に把握できる立場になることで、次のメンテナンス提案・改修提案・省エネ改善提案につながるビジネスの連鎖が生まれます。

まとめ

熱源・AHUをはじめとする空調設備は、稼働中に膨大なデータを生み出しています。しかし現状では、そのデータのほぼすべてが活用されないまま消えています。この「捨てられているデータ」の中には、異常の前兆・制御の無駄・負荷パターンという、省エネとCN対応に直結する情報が含まれています。

次回は、このデータが活用されない最大の理由の一つである「PID制御の構造的限界」に踏み込みます。現在の制御系がなぜデータを「先読みに使えない」のか、そしてそれが空調エネルギーの無駄とどう結びついているのかを整理します。

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