空調制御の難しさの本質は、「負荷がいつ、どれだけ変化するか」を正確に把握することの難しさにあります。外気温は気象データでおおよそ予測できます。しかし建物内の熱負荷を大きく左右するもう一つの要因————は、従来の空調システムにとってほぼ「見えない存在」でした。

何人が入室しているか。その人たちが厚着をしているか薄着か。動き回っているか座っているか。これらはすべて、空調が処理すべき熱負荷に直結する情報です。しかしPID制御をはじめとする従来の制御系は、室温センサーの数値が動いてから初めて反応します。人が増えて室温が上がり始めてから冷房を強める、という後追いの制御しかできません。

SCADAWORXが取り組む次世代AI空調制御は、この構図を根本から変えます。AIカメラで来客人数と着衣量をリアルタイムに推定し、その情報を空調負荷の予測モデルに組み込んだ上で、E-Smart MPCが最適な制御出力を先読みして出力する——センシングから制御最適化まで一気通貫のシステムです。

なぜ「人数」と「着衣量」が空調制御に必要なのか

建物の熱負荷は大きく分けて、外皮負荷(外気温・日射・換気)と内部発生熱負荷(照明・機器・人体)に分類されます。このうち人体発熱は、特に人が集まる施設——ショールーム、受付ロビー、会議室、製造ラインの作業エリア——では無視できない割合を占めます。

人一人が発する熱量は、安静時でおよそ100W相当です。10人増えれば1kWの熱源が室内に加わる計算になります。さらにこの値は活動量と着衣量によって大きく変動します。軽装の夏服で軽作業をしている人と、厚手のコートを着たまま着席している人では、室内の熱環境への影響がまったく異なります。

着衣量(クロ値)は快適性指標PMV(予測平均温冷感申告)の主要パラメータの一つです。同じ室温22℃でも、薄着の来客が多いショールームと、冬装備の来客が集まる受付ホールでは、適切な空調設定値が変わります。これを無視して一律の設定温度で制御していることが、「寒すぎる」「暑すぎる」というクレームの温床になっています。

AIカメラによる人数・着衣量の推定技術

この課題に対し、SCADAWORXが活用するのがエッジAIカメラです。

人数カウントについては、現在のコンピュータビジョン技術はすでに実用水準に達しています。天井または入口に設置したカメラの映像から、物体検出モデル(YOLOシリーズなどの軽量モデル)がリアルタイムで人を検出・カウントします。プライバシー保護の観点から、顔認識は一切行わず人体シルエットの検出のみを使用します。映像そのものも外部に送信せず、エッジデバイス上で処理が完結するため、個人情報の取り扱いに関するリスクが最小化されます。

着衣量の推定は、より新しいアプローチです。衣服の色・面積・テクスチャ情報から軽装・中程度・厚着の3〜5段階に分類する画像分類モデルを使い、エリア全体の平均着衣傾向をスコアとして算出します。このスコアを空調負荷計算に組み込むことで、季節の変わり目や冷房の効きすぎ・不足問題を大幅に改善できます。

これらの処理はすべてエッジデバイス上で完結し、SCADAシステムに人数・着衣スコアのデータポイントとしてリアルタイムで送り込まれます。

E-Smart MPCへのデータ統合——負荷予測から制御出力まで

AIカメラから得た人数・着衣量データは、E-Smart MPCの予測モデルへの入力として統合されます。この統合こそが、本システムの中核です。

E-Smart MPCが保持するプロセスモデルは、室温・湿度・電力といった従来のSCADAデータに加え、人数と着衣スコアという新たな変数を「外乱入力」として取り込みます。モデル予測制御の枠組みでは、将来の外乱が事前に予測できる場合、それを先取りした操作量を計算できます。

具体的なイメージとして、入口のAIカメラが団体客の入室を検知したとします。E-Smart MPCはその瞬間に「今から約15分後に室温が0.8℃上昇すると予測される」という計算を行い、今すぐ冷房能力を段階的に引き上げる操作を開始します。室温が実際に上がってから冷やし始めるPID制御と比べ、温度の乱れが小さく、コンプレッサーの急激な出力変動も抑えられます。

また退室が多い時間帯——たとえば昼休み直後や終業前——には冷房・暖房を事前に絞り始めます。人がいなくなった後も慣性で冷やし続けるという空調の無駄が解消され、これが省エネ効果として直結します。

PMVを目的関数に組み込んだ「快適性×省エネ」の同時最適化

E-Smart MPCの最適化計算では、目的関数(何を最小化・最大化するか)を設計者が設定できます。従来の温度偏差の最小化だけでなく、PMV(予測平均温冷感申告)の快適域維持と電力消費量の最小化を同時に目的関数に加えることが可能です。

PMVの計算には、室温・湿度・平均放射温度・気流速度・代謝量・着衣量の6要素が必要です。このうち着衣量をAIカメラが動的にリアルタイム推定することで、PMVを実態に即した精度で算出できます。従来のPMV計算では着衣量を季節固定値(夏0.5クロ・冬1.0クロなど)として扱うしかありませんでしたが、実際の来客の着衣状況に合わせてリアルタイムに変化する値を使えば、より正確な快適性制御が可能です。

結果として、快適性の基準を守りながら電力消費を最小化するという、これまでトレードオフと考えられていた2つの目標を同時に達成することができます。

適用が期待される施設・現場

この技術は人の出入りがあり、かつ空調コストと快適性の両方が課題になっている施設で特に効果を発揮します。

自動車・機械などのショールームは、展示会や来客の繁閑差が大きく、従来は「とりあえず強めに冷やしておく」という非効率な運転が常態化しています。工場の来客対応エリアや受付ロビーも同様です。スポーツジムや公共施設では、利用者の活動量と着衣量のばらつきが大きく、一律の温度設定では必ず不満が生じます。製造ラインの作業エリアでは、作業者の人数変動と保護服・防護装備の着用状況が熱負荷に直接影響します。

また複数エリアを持つ大型施設では、エリアごとにAIカメラとE-Smart MPCを配置し、SCADAで一元管理する構成を取ることで、建物全体のエネルギー最適化も視野に入ります。

プライバシーと現場受け入れについて

AIカメラの導入において、現場スタッフや来客のプライバシーへの配慮は不可欠です。本システムでは次の設計方針を徹底しています。

顔認識・個人識別は一切行わず、人数カウントと服装分類のみを処理対象とします。カメラの映像データはエッジデバイス内でリアルタイム処理され、映像そのものはクラウドにも社内ネットワークにも送信されません。SCADAシステムに送られるのは「人数:12名、着衣スコア:中程度」といった集計値のみです。現場への説明・掲示も含め、透明性の高い運用設計を標準で提供します。

まとめ

空調制御の最適化において、「人」という変数は長らく制御系から欠落していました。来客人数と着衣量をAIカメラでリアルタイムに把握し、その情報をE-Smart MPCの予測モデルに統合することで、室温が乱れる前に動く先読み制御が初めて実現します。

快適性の向上・省エネ・設備負担の軽減を同時に達成するこのアプローチは、SCADAとAI制御を一体で提供できるSCADAWORXだからこそ実装できるソリューションです。ショールーム・工場・公共施設など、人の出入りがある空間の空調課題をお持ちの方は、ぜひ現状をお聞かせください。

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